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菅原昇 氏 連載コラム③

こちらの記事は2022年8月に弊社がインタビューを実施した内容をまとめたものです。 今年の4月に改正法が施行され、建物の解体工事等の際にアスベストの事前調査結果の報告が義務化となりました。来年10月には更なる法改正が控えています。一方で欧米では、アスベストの法規制は、 日本よりずっと先に進んでいました。行政が事前調査から分析、工事等の技術的な監視を行い、ずさんな工事等、違法行為が発覚した場合には業務停止や廃業命令を出すほど厳しいんです。それだけ行政側にアスベストに精通した人材が多いということでもあります。日本でもようやく法規制が進み、アスベストの調査・分析の需要は間違いなく高まっていますが、その制度を支える人材の育成、確保は直近の課題となっています。    アスベストの分析方法として、日本では5つのJIS規格(定性2、定量3)が定められています。しかし、 それぞれの分析方法によって、アスベストの分析結果に差異があると言われています。そのうちJIS-1法とJIS-4法は、欧米で使われている国際規格ISO法を日本語訳したもので、正確性、迅速性では特に優れていると考えています。一方でJIS-2法とJIS-3法は、古くから作業環境測定分野で、日本独自の方法として、 広く認知されてきましたが、ISO法より定性、定量面で劣ると言われています。アスベスト規制に関する法改正後、JIS-1法が広く普及しつつあります。日環協は、若い分析者を中心に実技研修などを通して、 この方法の普及、技術者の養成に努めてきました。JIS-1法をアスベスト分析のスタンダードとすることを目的として、これからも活動を続けていきたいと考えてます。    アスベスト分析の需要は間違いなく増えていく一方で、分析機関の質や技術者の教育・訓練が直近の課題となっています。アスベストの分析者には、現在その技術を保証する公的な資格はありません。極論を言うと、とりあえず分析者と名乗れば、誰でもできちゃう感じなんですね。まずは講習会などに参加してみることがおすすめです。そこで15人とか20人集まると、自分の会社情報だけじゃない、いろんな技術的なものも含め、最新情報を得ることができます。そういう機会になるべく多く触れてほしいというのが願いです。情報交換量が不足していると、技術や知識の習得がどんどん遅れていくように感じます。(一社)日本環境測定分析協会ではそのような講習会を定期的に開催していますので、ぜひ活用していただければと思います。(了)

菅原昇 氏 連載コラム②

こちらの記事は2022年8月に弊社がインタビューを実施した内容をまとめたものです。 クボタショックは国内のアスベスト被害における衝撃的な出来事でした。2005年、兵庫県尼崎市にある大手機械メーカー、クボタの旧神崎工場の周辺住⺠に中皮腫などのアスベスト疾患が発生していると報道されたことを契機として、社会的なアスベスト被害の問題が急浮上してきました。それ以前にも、学校や公営住宅の天井や壁などに使用されたアスベスト含有吹付材による曝露被害も問題視され、国内でのアスベスト対策見直しのひとつの契機となりました。アスベストを一種の「公害病」と捉えた時、水俣病やイタイイタイ病などの公害病は特定のエリアにおいてみられる地域性の高い疾病でしたが、それに比べてアスベストによる被害のエリアは広く、国内で年間約1500名、世界統計では約4万人が中皮腫などの肺疾患で死亡していると言われています。ここまで規模の大きな症例は他に類をみません。    アスベストは耐熱性、耐久性、柔軟性、耐摩耗性、耐薬品性,耐腐食性,耐久性、絶縁性など多くの点で優れた天然鉱物で、他の物質との親和性がよいことから「奇跡の鉱物」として、家庭用品から住宅建材などに広い用途で使用されてきました。でも今では製造、販売、輸入すべてが全面禁止となりました。現在、アスベストの代替品として似たような繊維状の工業製品素材として、ロックウールやグラスウールが使われていますが、太さが髪の毛の5000分の1のアスベストに比べて、その30〜150 倍ぐらい太さの上に高額で、すべての性能面でアスベストより劣ります。そんなアスベストを取り巻く世界の現状について、より詳しく見ていきましょう。   世界120カ国のうち、現在アスベストの法規制がある国が41カ国ぐらいです。残りの国では野放し状態で、その中にはロシアや中国、インドなどの大国も含まれています。今ウクライナでは、ロシア軍による攻撃で都市の破壊が繰り返されていますが、まさしくアスベストをばらまいてるような状況です。どちらの国も法規制がありません。また、戦争に投入される戦車や戦闘機、それらの格納庫や弾薬庫、軍艦などにもアスベスト含有製品が大量に使われています。爆撃を受けても熱に強く、硬くて壊れにくい、燃えにくい性状のため、軍事施設にはおあつらいえむきの材質です。それから原発など「工作物」と呼ばれる施設にも事故やテロ対策のため、同じような目的でアスベスト含有建材が使用されています。(続く)    

菅原昇 氏 連載コラム①

こちらの記事は2022年8月に弊社がインタビューを実施した内容をまとめたものです。  実は私、アスベストの分析に関してはど素人だったんですよ、数年前までは。それまでは秋田の分析機関で長年、環境測定の仕事に関わっていました。それがアスベストに関わりを持ち始めたのは、ようやくアスベストが世間的に環境問題として語られるようになったからなんです。最初は日環協で、アスベスト分析者を育てる講習会の事務局を担当していました。毎年数回技術者を集めて、顕微鏡を見せて、技術の向上を図る、そんな仕事です。なのでそこで受講した技術者の方は、今でも私のことを覚えていてくれます。一方で分析機関に所属しながら、大学、全国のシンポジウム、各地の勉強会などで講師もやっていました。そういった経験が今の私を支えてくれています。   日本での大きな被害事例で言うと、地震です。記憶に新しいのは阪神淡路大震災で倒壊したビルや高速道路の高架橋などには、当然アスベストが含まれていて、それが飛散して...ということが多々ありました。当時、がれき処理などして、急性の肺疾患(中皮腫、肺がん)で、亡くなられた方もいました。 中皮腫は被ばくしてからの発症までの潜伏期間が約40年間といわれ、阪神淡路の震災からまだ28年しか経っていませんし、東日本大震災も時間とともに中皮種の発症例が出てくるでしょう。津波でアスベスト含有建材が破壊されたことで、アスベストが飛散しています。ただ、阪神淡路の教訓が活されて、被ばく者の数は減っていると思いますが、それでも、あと何十年後かには発症事例が出てくるでしょう。日本で欧米並みのアスベスト対策が本格的に始まったのは驚くことに、まだここ2〜3年の話なんです。   熊本地震 (2016年) の直後、環境省の委託事業で大気中へのアスベスト飛散の現地調査で、熊本市や益城町へ現地入りした時は、特に記憶に残っています。多くの家屋や道路などが倒壊したままで、 避難所とかもまだパニック状態になっているところに我々が東京から調査に入ったので、担当する役場の人たちと意見が衝突することが多々ありましたね。彼ら自身も被災当事者で避難所生活を強いられていたので、向こうからすると調査よりもまず衣類や食料確保など、寝ずに住⺠対応をしなければという状況でもありました。また彼らの多くがアスベストについて何も知らない状況で、別に地震などが起こらなければ、アスベストなんか興味もない、そのような現状に大きな衝撃を受けたことを記憶しています。(続く)