菅原昇 氏 連載コラム②

こちらの記事は2022年8月に弊社がインタビューを実施した内容をまとめたものです。

クボタショックは国内のアスベスト被害における衝撃的な出来事でした。2005年、兵庫県尼崎市にある大手機械メーカー、クボタの旧神崎工場の周辺住⺠に中皮腫などのアスベスト疾患が発生していると報道されたことを契機として、社会的なアスベスト被害の問題が急浮上してきました。それ以前にも、学校や公営住宅の天井や壁などに使用されたアスベスト含有吹付材による曝露被害も問題視され、国内でのアスベスト対策見直しのひとつの契機となりました。アスベストを一種の「公害病」と捉えた時、水俣病やイタイイタイ病などの公害病は特定のエリアにおいてみられる地域性の高い疾病でしたが、それに比べてアスベストによる被害のエリアは広く、国内で年間約1500名、世界統計では約4万人が中皮腫などの肺疾患で死亡していると言われています。ここまで規模の大きな症例は他に類をみません。 

 

アスベストは耐熱性、耐久性、柔軟性、耐摩耗性、耐薬品性,耐腐食性,耐久性、絶縁性など多くの点で優れた天然鉱物で、他の物質との親和性がよいことから「奇跡の鉱物」として、家庭用品から住宅建材などに広い用途で使用されてきました。でも今では製造、販売、輸入すべてが全面禁止となりました。現在、アスベストの代替品として似たような繊維状の工業製品素材として、ロックウールやグラスウールが使われていますが、太さが髪の毛の5000分の1のアスベストに比べて、その30150 倍ぐらい太さの上に高額で、すべての性能面でアスベストより劣ります。そんなアスベストを取り巻く世界の現状について、より詳しく見ていきましょう。

  世界120カ国のうち、現在アスベストの法規制がある国が41カ国ぐらいです。残りの国では野放し状態で、その中にはロシアや中国、インドなどの大国も含まれています。今ウクライナでは、ロシア軍による攻撃で都市の破壊が繰り返されていますが、まさしくアスベストをばらまいてるような状況です。どちらの国も法規制がありません。また、戦争に投入される戦車や戦闘機、それらの格納庫や弾薬庫、軍艦などにもアスベスト含有製品が大量に使われています。爆撃を受けても熱に強く、硬くて壊れにくい、燃えにくい性状のため、軍事施設にはおあつらいえむきの材質です。それから原発など「工作物」と呼ばれる施設にも事故やテロ対策のため、同じような目的でアスベスト含有建材が使用されています。(続く)